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カテプシンC阻害剤の血管炎治療効果を証明~ANCA関連血管炎の新規治療薬として期待~
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23 8月, 2024 -
ポイント ・カテプシンC阻害剤がラットANCA関連血管炎モデルの病変を改善。 ・カテプシンC阻害により、ANCA関連血管炎モデル内で生じる病因物質NETsが減少。 ・NETsが病因となる様々な疾患に対する新規治療開発の進展に期待。 概要 北海道大学大学院保健科学研究院の西端友香助教、益田紗季子講師、石津明洋教授らとアリヴェクシス株式会社の共同研究グループは、NSP*1の成熟を司るカテプシンCの作用を阻害することにより、NETs*2の形成が抑制され、NETsが病因となっているANCA*3関連血管炎を改善することを、動物モデルを用いて初めて示しました。 NETsの形成には成熟したNSPの働きが必須であることから、研究グループは、カテプシンCの酵素活性を阻害することでNSPの成熟が妨げられ、病因であるNETsが形成されなくなることによってANCA関連血管炎が改善する、という仮説を立てました。本研究では、ANCAの産生とともにANCA関連血管炎を発症する動物モデルを作製し、この動物モデルにカテプシンC阻害剤を経口投与しました。本研究で使用したカテプシンC阻害剤はアリヴェクシス株式会社において開発された新規化合物であり、カテプシンCに対する高い特異性と阻害活性を有しています。 カテプシンC阻害剤を投与された動物モデルでは、末梢血中に検出されるNETs形成好中球や腎臓に沈着するNETsが激減し、臨床像としても見られる腎糸球体障害並びに肺出血が軽減しました。本研究の成果は、ANCA関連血管炎をはじめNETsが病因となっている種々の疾患に対し、カテプシンC阻害が有効な治療戦略となることを示しています。 なお、本研究成果は、日本時間2024年8月22日(木曜)18時公開のNature Communications 誌に掲載されました。 【背景】 ANCA関連血管炎は好中球細胞質抗原に対する自己抗体ANCAの出現に伴って発症する全身性小型血管炎で、高齢者に多く、急速に悪化する腎機能障害や肺出血などを特徴とする疾患です。厚生労働省が指定する難病の一つであり、2020年における特定医療費の受給者は約2万人で、その数は年々増加しています。副腎皮質ステロイドやシクロホスファミドなどの免疫抑制剤、CD20分子に結合するリツキシマブや補体C5a受容体に結合してC5aに拮抗するアバコパンなどの分子標的治療薬の有効性が確認されており、一定の治療効果が得られていますが、これら治療への不応例や治療後に再燃する例があり、新たな治療薬の開発が強く求められています。また、既存の治療薬には免疫力の低下をきたす副作用があり、治療に関連した感染症の併発は解決すべき大きな課題となっています。 NETsは病原微生物の生体内への侵入を受けて好中球が細胞外に放出するDNA複合体で、好中球が細胞質に保有する殺菌酵素を纏っています。好中球から放出されたNETsはDNAで病原微生物を絡めとり、殺菌酵素を浴びせて病原微生物を殺傷します。NETsは生体にとって重要な感染防御機構ですが、過剰に形成されると生体にとって不利益をもたらすことも知られています。ANCA関連血管炎では、ANCAが好中球に結合することによって好中球からNETsが過剰に放出され、これが病原微生物を殺傷する代わりに自身の血管内膜を損傷することによって血管炎が発症します(図1)。 NSPは好中球が保有する一群の酵素で、好中球エラスターゼやプロテイナーゼ3、カテプシンGなどが含まれます。各種のNSPに共通した活性化機構として、骨髄において好中球が分化する過程で、未熟型(非活性型)NSPのN末端側の二つのペプチドが切断され、成熟型(活性型)に変化することが知られています。成熟型(活性型)の好中球エラスターゼは、NETsの形成において重要な役割を果たしています(図1)。 カテプシンCは骨髄における好中球の分化過程で作用し、未熟型(非活性型)NSPのN末端側の二つのペプチドを切断し、成熟型(活性型)に変換する酵素です(図1)。 【研究手法】 まず、生後4週齢の雄性Wistar Kyotoラット24匹に対し、既報どおり、好中球に対する自己抗体の抗原となり得るヒト由来MPOを免疫し、ANCA関連血管炎動物モデルを作製しました。 次に、上記ラットを8匹ずつ3群(疾患群、低用量治療群、高用量治療群)に分け、低用量治療群にはMOD06051を0.3 mg/kg、高用量治療群にはMOD06051を3 mg/kg、1日2回連日経口投与しました。疾患群には同量の溶媒を1日2回経口投与しています。投与期間はモデル作製日から42日間とし、42日目に全個体からサンプリングを行いました。 そして、血清中のANCA抗体価(酵素結合免疫吸着測定法)、血中NETs形成好中球(フローサイトメトリー法)、腎組織におけるNETs沈着(免疫蛍光法)、腎組織傷害(PAS染色法)、肺出血(HE染色法)を評価しました。 【研究成果】 MOD06051は9種類のカテプシンファミリー酵素の中でカテプシンCのみを選択的に阻害し、ラットへの投与後に末梢血のカテプシンC活性を阻害しました。またヒト造血幹細胞から分化させた好中球や連投後のラットの骨髄由来の好中球のNSPの活性を阻害し、様々な刺激によるNETs形成も阻害しました。 血清中のANCA抗体価については、正常ラット8匹を陰性対照とすると、疾患群では陰性対照に比べて有意に高いANCA抗体価を示しました。MOD06051投与群では、用量によらず、ANCA抗体価は疾患群と同程度に高い値を示しました(図2a)。 血中NETs形成好中球については、正常ラット8匹を陰性対照とすると、疾患群では陰性対照に比べて血中好中球のNETs形成割合が有意に高く、MOD06051投与群では、用量依存的かつ有意にその割合が減少し、正常レベルまで改善しました(図2b)。 腎組織におけるNETs沈着については、疾患群では糸球体に浸潤する好中球の約10%がNETsを形成していましたが、MOD06051投与群では用量依存的かつ有意に腎組織におけるNETs沈着が減少しました(図2c)。 腎組織傷害については、疾患群では約10%の糸球体に病変が認められましたが、MOD06051投与群では傷害されている糸球体の割合が有意に減少しました(図2d)。 肺出血については、MOD06051の用量依存的に肺出血が減少し、高用量投与群では疾患群に比べて有意に改善しました(図2e)。 【今後への期待】 カテプシンC阻害剤は、ANCA関連血管炎の新規治療薬候補です。本研究においてANCA抗体価への影響が認められなかったことは、抗体産生能すなわち液性免疫能には影響を及ぼさないことを意味しており、幅広い免疫機能を抑制する既存の治療薬とは異なり、免疫力低下を引き起こさない可能性を示しています。 また、カテプシンCを遺伝的に欠損させたマウスでは、好中球の活性酸素放出、接着、遊走、ファゴサイトーシスへの影響が無いことが報告されていることから、好中球の感染防御機能への影響を回避しつつ病態を改善できる可能性が見込まれます。今後、MOD06051の臨床試験において、本薬剤の安全性と有効性が確認されることが期待されます。 また、NETsはANCA関連血管炎以外にも、敗血症、痛風、糖尿病、全身性エリテマトーデス、関節リウマチなど様々な疾患の病因ともなっていることが知られています。そのため、カテプシンC阻害は、これらNETsが病因として関与する種々の疾患に対しても有効な治療戦略となる可能性が期待されます。 【謝辞】 本研究は、JSPS科研費(JP21H0295802)の助成を受けたものです。 論文情報 論文名 Cathepsin C inhibition reduces neutrophil serine protease activity and improves activated neutrophil-mediated disorders(カテプシンC阻害は好中球セリンプロテアーゼの作用を抑制し活性化好中球が関与する疾患を改善する) 著者名 西端友香1、荒井粋心1、谷口 舞1、中出一生1、小川帆貴1、北野翔大1、細井夢花1、進藤綾乃1、西山 遼1、益田紗季子1、中沢大悟2、外丸詩野3、清水喬史4、William Sinko4、長倉 廷4、寺田 央4、石津明洋1(1北海道大学大学院保健科学研究院病態解析学分野、2北海道大学大学院医学研究院免疫・代謝内科学教室、3北海道大学病院病理部/病理診断科、4アリヴェクシス株式会社) 雑誌名 Nature ...continuedマスト細胞を特異的に標的とする新しい抗アレルギー薬MOD000001の同定
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11 4月, 2024 -
ポイント 山梨大学大学院総合研究部医学域免疫学講座の中村勇規准教授、中尾篤人教授らのグループとアリヴェクシス株式会社は、種々のアレルギー性疾患の治療薬となり得る新しい低分子化合物MOD000001を開発しました。本化合物は、KITと呼ばれる受容体分子を特異的に阻害することで、アレルギー症状の根源であるマスト細胞の活性化を抑えて、またその細胞の数を減らします。ヒトや動物のマスト細胞を用いた実験で効果が見られたとともに、経口投与でマウスのアレルギー症状を軽減することが分かりました。現在、アリヴェクシス株式会社ではさらなる最適化を行い、臨床応用に向けた研究開発を進めています。なおこの成果は、4月2日に米国アレルギー学会誌であるJACI: Globalに掲載されました。 概 要 背景: 花粉症や喘息、食物アレルギー、アトピー性皮膚炎、食物アレルギー、じんましんなどのアレルギー疾患は、花粉やダニなどの環境中のアレルゲンによって「マスト細胞」と呼ばれる免疫細胞が活性化し、ヒスタミンなどのアレルギー反応の誘導分子が放出され、炎症が形成されることによって起こります。既存の抗アレルギー薬である抗ヒスタミン剤や副腎皮質ホルモンなどは、マスト細胞や他の免疫細胞からのアレルギー反応誘導分子を標的としており、それらの作用を阻害することにより効果を発揮します。ただこれらの既存の薬剤では、アレルゲンによるマスト細胞の活性化そのものに対する抑制作用がないため、あくまで対症療法であり、薬剤を中止すると比較的すぐにアレルギー症状が再発することが知られていました。 マスト細胞の活動性や生存は、KITというマスト細胞表面上に発現している受容体分子の働きにより制御されています。よってKITの作用を特異的に阻害することにより、マスト細胞の活動性や体内における数を減らす、新規の抗アレルギー薬を創出できることが考えられました。特に、花粉症や喘息・アトピー性皮膚炎・食物アレルギー・じんましんなどのアレルギー疾患患者さんの鼻粘膜や気管支・皮膚・腸管では、健常人に比べてマスト細胞の数が増加していることが知られているため、病変部でのマスト細胞数を減らすことによって、アレルギー症状を強力かつ長期的に緩和できることが期待されました。一方、これまでアレルギー疾患以外の病気、主には白血病やガンなどの細胞増殖性疾患の治療を目的として、幾つかのKIT阻害剤が開発されていましたが、いずれもKIT特異性に乏しく、副作用の頻度が高いことが問題となっていました。 そこで本学ならびにアリヴェクシス株式会社の研究グループは、KIT特異性が極めて高い低分子KIT阻害剤を開発し、アレルギー疾患の新たな治療薬としての可能性を検討することとしました。 今回の成果: 研究グループは、最新のスーパーコンピュターを利用した分子動力学シミュレーションによって、精度高く高速に化合物選定や目的タンパク質への結合能を評価できるシステムなどの独自の創薬プラットフォームを用いることにより、KIT受容体に選択的に結合する低分子化合物候補を複数個見出しました。さらに試験管内での実験により、その中から、KITが持つリン酸化酵素活性(マスト細胞の活動性を高めたり生存を延長させるために重要な生理活性)を選択的かつ強力に阻害する作用を持つ化合物としてMOD000001を同定し、さらなる検討を進めました。 マウス骨髄由来培養マスト細胞とヒト末梢血幹細胞由来培養マスト細胞を用いた実験により、MOD000001が、SCF(KIT受容体に結合し活性化する生体内分子)やアレルゲンによるマスト細胞の活性化や生存の延長、マスト細胞の遊走活性などを顕著にかつ特異的に阻害することが示されました。また、マウスじんましんモデルを用いた実験によって、MOD000001の経口投与が、アレルゲン によって惹起されるじんましんを著明に軽減することが見出されました。さらに、MOD000001の長期経口投与によりマウス皮膚におけるマスト細胞数の減少も確認されました。なおMOD000001の長期投与によるマウスへの副作用は観察されませんでした。 今回の成果の意義: これまでアレルギー疾患の主たる治療薬は、免疫細胞が産生するアレルギー反応誘導分子を標的としており、マスト細胞を直接標的とする薬剤はありませんでした。よってMOD000001は全く新しい機序による抗アレルギー作用を持つ化合物ということができます。また本剤は、これまで知られているKIT阻害化合物と比較して格段に優れたKIT特異性を有しており、より高い安全性が期待されます。さらに本剤は、マスト細胞の活動性だけでなく、生存を抑制することにより体内のマスト細胞の数を減らすことが可能なため、本剤の開発により、より強力かつ持続的な抗アレルギー作用、今まで既存の抗アレルギー薬に反応しなかった患者さんへの効果、既存の抗アレルギー薬の減量効果などが期待されます。 なおアリヴェクシス株式会社では、経口薬としてMOD000001を元にさらに最適化したKIT特異的阻害化合物をすでに同定し、抗アレルギー薬としての早期の臨床応用を目指した評価を進めており、新規の抗アレルギー薬の実現に加え、マスト細胞が関与するアレルギー疾患以外の疾患(がんや動脈硬化、線維症など)への応用についても検討しています。 論文情報: [掲載誌] JACI: Global(米国アレルギー学会誌) [タイトル] A highly selective KIT inhibitor MOD000001 suppresses IgE-mediated mast cell activation [著者] Yuki Nakamura, PhD,1 Takeo Urakami, PhD ,2 Kayoko Ishimaru,1 Nguyen Quoc Vuong Tran, PhD,1 Takafumi Shimizu, MS,2 William Sinko PhD,2 Taisuke Takahashi, PhD,2 Sivapriya Marappan, PhD ...continued